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インコタームズのDAPとは?他条件(DPU・DDP)との違いや注意点を解説

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インコタームズにおけるDAP(Delivered At Place)は、国際貿易での取引条件として広く利用されている規則です。特に近年のグローバル取引の複雑化に伴い、DAP条件の重要性はますます高まっています。 

そこで本記事では、DAPの基本的な概念から他の条件(DPU・DDP)との違い、実務上の注意点までを詳しく解説します。DAPについて理解を深めたい方はぜひ最後までご覧ください。 

インコタームズのDAPとは 

国際貿易の現場では、売主と買主の間で「どこまで誰が責任を持つのか」を明確にすることが、トラブル防止や効率的な物流管理のために極めて重要です。 

インコタームズ(International Commercial Terms)は、そのために国際商業会議所(ICC)が定めた国際的な貿易条件のルールであり、世界中の取引で広く利用されています。なかでも「DAP(Delivered At Place)」は、近年の実務で利用頻度が高まっている条件です。 

ここでは、まずDAPの定義と特徴、そして導入の背景について解説します。 

DAP(Delivered At Place)の定義 

DAP(Delivered At Place/仕向地持込渡し)は、売主が買主の指定する仕向地まで貨物を運び、そこで引き渡すことを約束するインコタームズの条件です。 

売主は、指定された場所までの輸送費用およびリスクを全て負担し、貨物が仕向地に到着した時点で買主にリスクが移転します。つまり、売主は貨物を買主が指定した場所まで安全に届ける義務を負い、そこで貨物の管理権限とリスクが買主に移る仕組みです。 

この際、輸出通関手続きや輸出に関わる諸費用は売主が負担しますが、輸入通関および関税、仕向地での荷卸し費用は買主の負担となります。荷卸しについては、あくまで「到着した輸送手段の上で」引き渡しが行われるため、荷卸し作業そのものやその際のリスクは原則として買主が負担します。 

また、DAPは港や空港、物流センター、買主の工場など、買主が指定するあらゆる場所を仕向地とすることができる柔軟な条件です。これにより、サプライチェーン全体の最適化や、買主のニーズに合わせた細やかな物流手配が可能となります。 

DAPはインコタームズ2010の改訂で新たに導入された条件 

DAPは、インコタームズ2010の改訂で新たに導入された条件です。それ以前は、DAF(Delivered At Frontier/国境持込渡し)、DES(Delivered Ex Ship/本船持込渡し)、DDU(Delivered Duty Unpaid/関税抜持込渡し)など、複数の類似条件が存在していました。 

しかし、これらは実務上の使い分けが複雑で、国際的な標準化や取引の明確化を妨げる要因となっていたため、2010年の改訂でDAPが新設され、従来の条件が統合・整理されました。 

また、インコタームズ2020では荷卸し作業まで売主が責任を負う「DPU(Delivered at Place Unloaded)」が新設され、DAPとの違いがより明確になりました。契約当事者は自社の実務やリスク許容度に応じて、より適切な条件を選択できるようになっています。 

DAPと他条件(DPU・DDP)との違い 

ここでは、DAPと他条件(DPU・DDP)の特徴を実務的な観点から比較し、責任範囲や費用負担の差異を明確にします。 

条件輸送責任荷下ろし輸出期間輸入通関・関税
DAP
売主
買主 
売主
買主 
DPU売主 売主 売主 買主
DDP売主 売主 売主 売主 

DPUとは 

DPU(Delivered at Place Unloaded/荷卸込持込渡し)は、インコタームズ2020で新設された条件です。DAPとの最大の違いは、売主が指定仕向地での荷卸しまで責任を負う点にあります。具体的には、貨物が輸送手段から降ろされ、仕向地の地面に置かれた時点でリスクが買主に移転します。 

この条件は従来のDAT(Delivered at Terminal)を拡張したもので、ターミナルに限定されない柔軟な場所指定が可能になりました。例えば工場の敷地内や建設現場など、買主が指定する任意の場所で荷卸しが完了すれば、売主の義務は終了します。 

実務上の注意点として、荷卸しに伴う追加費用(クレーン使用料や特別な荷役設備の手配料など)が発生する場合、契約書で明確に負担者を定めておく必要があります。売主が無断で荷卸しを手配した場合、後日の費用請求ができないリスクがあるため、事前の合意形成が不可欠です。 

DDPとは 

DDP(Delivered Duty Paid/関税込み持込渡し)は、輸入通関手続きと関税支払いまで売主が責任を負う唯一の条件です。貨物が指定仕向地に到着し、輸入通関を完了した時点でリスクが買主に移ります。インコタームズで最も売主の負担が重い条件であり、輸出者が輸入国の税制や規制に精通していることが前提となります。 

DDPを選択する主なメリットは、買主が通関業務から完全に解放される点です。ただし、関税率が高い国への輸出では売主のコストが急増するため、事前の関税見積もりが必須です。また、輸出者が輸入国に法人格を持たない場合、通関代理人の手配が必要になるなど、実務上のハードルが存在します。 

DAPの実務フロー 

DAPにおける実務フローは以下のように進行します。 

  1. 売主と買主がDAPを含む売買契約を締結 
  2. 売主が貨物の梱包、輸出書類の準備を行う 
  3. 売主が輸出通関手続きを完了 
  4. 売主の責任で指定仕向地まで貨物を輸送 
  5. 売主は貨物が到着したことを買主に通知 
  6. 買主が輸入通関手続きを実施 
  7. 買主が貨物を受け取り、取引完了 

この中で特に注意すべきは、1の契約締結時の条件明確化です。DAPでは仕向地の指定が非常に重要であり、住所や施設名、場合によっては倉庫内の区画まで、できる限り詳細に記載することがトラブル防止につながります。 

DAPを利用するメリット 

DAP条件を採用することは、売主と買主双方にメリットをもたらします。以下では、実務的な観点から具体的なメリットをみていきましょう。 

買主は輸入通関のみに集中できる 

DAPの最大の強みは、買主が輸入通関業務に専念できる点です。売主が指定仕向地までの輸送を一括管理するため、買主は関税計算や現地規制対応といった専門的な業務にリソースを集中させることができます。 

また輸入通関に必要な書類準備や現地税制の調査など、時間を要する作業から解放されることで、買主はコア業務の効率化を図れるでしょう。例えば、技術基準適合証明や安全規格の確認といった輸入国固有の手続きに注力できるため、ミスの軽減や処理速度の向上が期待できます。 

輸送に精通した売主が物流を最適化できる 

国際輸送の専門知識を持つ売主がDAPを採用する場合、輸送ルートの設計や運送業者の選定において、コストと納期のバランスを最適化できます。 

燃料費の高騰や航路の変更など予期せぬ変化にも売主が的確に対応してくれることは、買主にとって安心感につながるでしょう。買主は自社で輸送手段を手配する手間を省きつつ、最適化された物流サービスを享受できます。 

責任分担が明確で紛争リスクが低減する 

DAPではリスク移転のタイミングが「指定仕向地到着時」と明確に定義されており、輸送中の事故や到着後の貨物損傷に関する責任範囲が法的に明確です。契約書に基づく厳格な責任分界点の設定によって、輸入通関遅延に伴う保管料や荷卸し時の事故リスクといったトラブル要因が事前に排除されます。 

貨物が仕向地に到着した時点で売主の義務が完了するため、それ以降のリスク管理は買主が集中して行える仕組みとなっており、予期せぬ費用発生や法的紛争を未然に防ぐ効果があります。 

DAPを利用するデメリット 

DAP条件の採用は明確なメリットをもたらす一方で、売主と買主双方にリスクを伴います。ここからは、DAPを利用するデメリットについてみていきましょう。 

売主の負担とリスクが大きい 

DAP条件では、売主が指定仕向地までの輸送全般を管理するため、燃料価格の変動や航路変更、天候不良による遅延など、予測不可能なリスクを一手に引き受けることになります。例えば、海上輸送中に発生するサプライチェーンの混乱や、輸入国での突発的な交通規制に対応する必要があり、これらのリスクが売主の収益性を圧迫する要因となりかねません。 

さらに、輸送手段の選択や運送業者の手配において、買主の要望に応えるためにコストが膨らむケースも少なくありません。航空便への切り替えや特別な温度管理が必要な貨物の場合、追加費用の見積もりが困難で、結果として利益率が低下する危険性があります。 

仕向地での荷降ろしの責任範囲が曖昧になる可能性がある 

DAPの課題は、荷卸し作業に関する責任分界点の解釈が曖昧になりやすい点です。 

契約書で「指定仕向地到着時」と定義されていても、実際の現場では「トラック到着時」「コンテナのゲート通過時」「倉庫内の指定スポット到達時」など、解釈の違いが生じる可能性があります。特に重量物や危険物を扱う場合や、荷卸しに特殊な設備や資格が必要なケースでは、作業手配の責任所在が不明確になるリスクが高まるでしょう。 

このようなリスクを軽減するためには、契約書に「荷卸し作業の具体的な手順」「使用する設備の種類」「作業員の資格要件」まで詳細に記載し、売主・買主・運送業者の三者間で合意形成を図ることが重要です。 

DAPの契約で注意すること 

DAP条件を円滑に運用するためには、契約締結段階でリスクを最小化するための具体的な対策が不可欠です。ここでは、DAPの契約で注意することを解説します。 

契約書に指定仕向地を正確に記載し、双方の認識を一致させる 

DAP契約において最も重要なのは、指定仕向地を厳密に定義することです。単に「東京港」と記載するのではなく、「東京港〇〇埠頭第3バース西側ゲート」のように施設内の特定ポイントを明記するようにしましょう。 

仕向地の特定が曖昧な場合、到着した貨物の受領拒否や保管料の負担問題が発生します。例えばコンテナヤードのゲート通過時と倉庫内指定スポット到達時では、リスク移転のタイミングが数日異なる可能性があります。契約書には「トラックのバックドアが開いた時点」「クレーンによる荷卸し開始時」など、具体的なアクションをトリガーとする定義が必要です。 

荷下ろし費用や手配について事前に明確な合意をしておく 

DAPの原則では荷卸しは買主責任ですが、特殊な荷役設備が必要な場合の費用負担を明確にすることが重要です。 

重量物のクレーン使用料や危険物の専門作業員手配など、追加費用が発生する可能性がある事項は、契約書の別紙で項目ごとに列挙するとよいでしょう。さらに、売主が荷卸しを代行する場合の責任範囲についても明確にしておくべきです。契約書には「売主の荷役作業員の過失による貨物損傷は売主負担」「買主指定の荷役業者を使用する場合は検査責任を買主が負う」など、想定されるリスクシナリオごとの対応を記載することが推奨されます。 

輸入通関の遅延リスク対策を徹底する 

DAP契約では、仕向地での輸入通関手続きや関税の支払いは買主の責任となります。そのため、買主が通関に不慣れだったり必要書類の準備が不十分な場合、通関が遅延し、貨物の滞留や追加費用の発生につながるリスクがあります。 

これを防ぐためには、事前に必要な書類や手続きの流れを売主・買主間でしっかり確認し、スケジュール管理を徹底することが重要です。また、信頼できる通関業者の選定や、輸入国特有の規制・祝日・ストライキなども考慮した対応策を準備しておくと、トラブルの未然防止につながるでしょう。 

まとめ 

DAPはインコタームズの中でも重要な貿易条件の一つです。適切に活用することで、国際取引における不確実性を減らし、円滑な貿易を実現できます。 

ただしDAPを含むインコタームズを適切に活用するためには、貿易条件に関する正確な知識と、グローバルなネットワークを持つ物流パートナーの存在が不可欠です。 

国際物流や貿易条件でお悩みがございましたら、豊富な実績を持つ後藤回漕店にぜひご相談ください。 

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